近年、相続や高齢期の財産管理に関する相談が増える中で、「遺言」と「家族信託」という言葉を耳にする機会も多くなりました。
いずれも、財産をめぐるトラブルを防ぎ、本人の意思に基づいた財産の承継を可能にする手段ですが、その仕組みや効果が発揮されるタイミング、活用方法には大きな違いがあります。
本記事では、遺言と家族信託の基本的な仕組みと相違点、それぞれの活用場面について分かりやすく解説します。
このページの目次
遺言とは
遺言とは、自分が亡くなった後に、どのように財産を分けてほしいかを記した法的文書です。
遺言を作成することで、自分の意思を明確に示すことができ、相続人同士の争いを未然に防ぐ効果が期待できます。
遺言にはいくつかの種類がありますが、代表的なものは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。
自筆証書遺言は、本人が全文を自筆し、日付と署名を記す方式で、自宅でも手軽に作成できます。ただし、形式に不備があると無効になってしまう可能性があるうえ、家庭裁判所での検認が必要です。
一方、公正証書遺言は、公証役場で公証人が内容を確認しながら作成するため、形式上の不備や改ざんのリスクがほとんどありません。原本は公証役場に保管されるため、紛失の心配もなく、安全性の高い方法といえます。
遺言の効力は本人の死亡後に発生します。そのため、生前の財産管理には影響を及ぼさず、あくまで死後の相続分配の意思表示の手段という位置づけになります。
家族信託とは
家族信託とは、信頼できる家族などに財産の管理や処分を託す制度で、正式には「民事信託」と呼ばれます。
この制度は、本人が元気なうちに「信託契約」を結ぶことによって始まり、本人の意思が十分にある段階から財産の管理・運用・承継を柔軟に設計できる点が大きな特徴です。
家族信託では、財産を持つ人(委託者)が信頼できる人(受託者)に財産の名義を移し、その受託者が委託者のために財産を管理・処分します。そして、最終的にはあらかじめ指定された人(受益者)に利益が渡るよう設計されます。
この制度の最大のメリットは、認知症などで判断能力が低下した場合でも、あらかじめ任せておいた受託者が財産管理を継続できる点にあります。成年後見制度とは異なり、裁判所の関与を受けず、柔軟で実務的な管理が可能です。
また、最終的な財産の承継先だけでなく、二次・三次といった多段階の承継設計が可能な点も、遺言との大きな違いです。
両者の根本的な違い
遺言と家族信託の違いを理解するうえで最も重要なのは、発効するタイミングと、その法的性質の違いです。
まず、遺言は一方的な意思表示によって成立します。つまり、他人と契約する必要がなく、本人だけで作成できます。対して、家族信託は契約ですので、受託者となる相手の同意が必要です。これにより、家族信託の方が若干準備に時間や労力を要する傾向があります。
また、遺言は死亡後に効力を発するため、生前の財産管理には関与しません。一方、家族信託は契約を結んだ時点から効力を持つため、認知症対策や不動産の管理、事業承継など、生前の財産管理に大きな力を発揮します。
名義に関しても、遺言では死亡後に名義変更を行うのが一般的ですが、家族信託では契約時に財産の名義が受託者に移ります。これにより、例えば不動産の管理や売却も受託者の判断で行えるようになります。
さらに、家族信託では「受益者連続型信託」といった形で、複数世代にわたる承継設計が可能である点も特徴的です。これは遺言では基本的に不可能な設計であり、柔軟性の面でも家族信託は優れた仕組みといえるでしょう。
どちらを選ぶべきか
遺言と家族信託にはそれぞれのメリットと役割があります。どちらかが優れているというよりも、ご自身の目的や事情に応じて使い分ける、あるいは併用することが重要です。
例えば、単純に相続の分け方を明確にしたい場合や、特定の人に遺贈したい場合には、遺言が適しています。費用や手間も比較的少なく、特に公正証書遺言であれば、形式上のリスクも最小限に抑えられます。
一方で、認知症による資産凍結を防ぎたい、相続が複雑で長期にわたる財産管理が必要、あるいは不動産や事業など管理が難しい資産がある場合には、家族信託が非常に有効です。相続発生前から柔軟に対応できるという点で、予防的な役割を果たします。
併用するという選択肢も
遺言と家族信託は、併用することでより確実な相続対策が可能になります。たとえば、信託に組み込まなかった財産については遺言で分配方法を指定したり、家族信託で管理している財産についても、受益者死亡後の帰属先を遺言で補完するような使い方が可能です。
このように、両制度の特性を理解し、それぞれのメリットを最大限に活かすことが、トラブルのない円滑な財産承継に繋がります。
まとめ 専門家のサポートを活用して最適な選択を
遺言と家族信託は、いずれも「自分の意思を家族に正しく伝える」ための有効な手段です。ただし、その制度の成り立ちや法的効果には大きな違いがあるため、目的に応じて慎重に選ぶ必要があります。
特に家族信託は柔軟性が高い反面、設計や契約内容によって効果が大きく異なるため、信頼できる専門家の支援を受けながら進めることが望ましいといえるでしょう。
当事務所では、遺言の作成から家族信託の設計・契約支援まで幅広く対応しております。将来に不安を残さないためにも、まずはお気軽にご相談ください。