相続をめぐるトラブルは、遺言書の有無によって大きく左右されます。家族や親族間の関係が良好であっても、遺産の分け方や手続きに関する考え方が食い違うことで、感情的な対立に発展するケースは少なくありません。
そのような事態を未然に防ぐ最も有効な手段が、法的に有効な遺言書の作成です。
ただし、遺言書は単に思いを綴れば良いというものではなく、法律の定める方式に従って作成しなければ無効になる可能性があります。また、形式は有効でも内容に不備や曖昧さがあると、かえって相続人間の紛争を招く恐れもあります。
本記事では、相続トラブルを防ぐための遺言書作成のポイントや、作成時に注意すべき点について詳しく解説するとともに、代表的な方式である「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の違いについてもご紹介します。
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なぜ遺言書でトラブルが防げるのか
遺言書は、被相続人(亡くなった方)の最終意思を明確に示す法的文書です。
たとえ遺産がそれほど多くない場合でも、「誰がどの財産を取得するか」を明確に記載しておくことで、相続人の間での誤解や対立を回避できます。
特に次のようなケースでは、遺言書を残すことによって相続トラブルを未然に防ぐ効果が高まります。
- 相続人の中に疎遠な親族や異母兄弟が含まれる場合
- 再婚で配偶者が異なる子がいる場合
- 特定の相続人に多くの財産を与えたい場合
- 介護などで世話になった人に財産を渡したい場合
- 法定相続分と異なる分配を希望する場合
これらの事情があるにもかかわらず遺言書を作成しなかった場合、法律に基づく「法定相続分」での分割となり、意図とは異なる分配や争いの原因となることがあります。
トラブルを防ぐための遺言書作成のポイント
トラブルを防ぐ遺言書を作成するには、次のような点に留意することが重要です。
1. 法的要件を満たした形式で作成する
遺言書には法律上の形式が定められており、それを満たさない場合には無効となる可能性があります。
自筆証書遺言であれば全文を自筆で書くこと、公正証書遺言であれば公証人を通じて手続きを行うことが必要です。
2. 財産の内容と分け方を具体的に記載する
「長男に土地を、次男に預金を」といったように、財産の種類・所在・評価額をできるだけ明確に記載します。特に不動産については登記簿の記載に従って特定することが重要です。
曖昧な記載では、実際の分割時にトラブルが生じるおそれがあります。
3. 相続人の関係性を踏まえた内容にする
法定相続人以外の人に財産を遺贈する場合や、相続人の中で不公平な分配となる場合は、なぜそのようにしたのか理由を付言事項として記載するのも有効です。
これにより、相続人が感情的に反発するリスクを軽減できます。
4. 遺言執行者を指定する
遺言に基づく手続を円滑に進めるためには、遺言執行者の指定が効果的です。
遺言執行者には、司法書士など相続実務に詳しい第三者を選任すると、手続の進行がスムーズになります。
公正証書遺言と自筆証書遺言の違い
遺言書にはいくつかの種類がありますが、もっとも一般的に利用されているのが「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」です。
それぞれに特徴があり、どちらを選ぶかによって、将来の相続手続に大きな違いが生じます。
1. 公正証書遺言とは
公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成する遺言書です。
遺言者が公証人に内容を口頭で伝え、公証人がそれを文書にまとめたものに署名押印することで成立します。証人2名の立ち会いが必要となりますが、公証人が内容を確認して作成するため、無効になるリスクが極めて低いのが特徴です。
また、公正証書遺言は原本が公証役場に保管されるため、遺言書が失われたり改ざんされたりする心配もありません。相続開始後に家庭裁判所での「検認」が不要な点も大きな利点であり、迅速に相続手続きが進められます。
2. 自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、遺言者自身が全文・日付・氏名を自筆で記載し、押印することで成立する最も手軽な遺言書の方式です。
費用をかけずに作成でき、いつでも内容を変更できるという柔軟性があります。
一方で、書き方を間違えたり必要な記載を欠いたりすると無効になる可能性があります。遺言書の発見が遅れたり、紛失・改ざんのリスクもあるため、2020年からは法務局で自筆証書遺言を預かる制度も開始されました。
ただし、相続開始後には家庭裁判所での検認手続が必要であり、その分手続きには時間を要します。
司法書士など専門家の活用も検討を
形式上は問題のない遺言書であっても、内容に不備があったり相続人間での誤解を招いたりすることで、かえって争いの火種となる場合もあります。こうしたリスクを回避するためには、法律や実務に精通した専門家に相談しながら作成を進めるのが安心です。
特に、司法書士は不動産の名義変更(相続登記)や遺産分割の実務に精通しているため、遺言作成から相続手続まで一貫してサポートが可能です。
公正証書遺言を希望する場合は、公証人との連絡や証人の手配、当日の立ち会いなども任せることができ、手続きがスムーズに進みます。
まとめ
遺言書は、ご自身の意思を家族に伝えるだけでなく、残されたご家族の負担を軽減し、円満な相続を実現するための大切な手段です。しかし、正しい形式・内容で作成されていなければ、かえって争いや手続きの混乱を引き起こしかねません。
公正証書遺言は法的安定性が高く、安全性にも優れていますが、手数料や手続きの負担があります。一方、自筆証書遺言は手軽な反面、無効や紛失のリスクがあるため、慎重な作成が求められます。
相続トラブルを防ぐためには、形式の選択だけでなく、内容の明確性や相続人への配慮も重要です。必要に応じて、司法書士などの専門家の支援を受けながら、将来にわたって安心できる遺言書を準備しておきましょう。