人が亡くなると、相続が発生します。通常、遺言書がある場合はその内容に従って相続が進められますが、遺言書がない場合は法律に基づいた手続きが必要となります。
相続手続きにはいくつかのステップがあり、それぞれの段階で適切な対応をすることが重要です。
ここでは、遺言書がない場合の相続手続きの流れを詳しく説明します。
このページの目次
遺言書がない場合の遺産分割手続きの流れ
遺言書がない場合の相続手続きは、遺言書がある場合に比べて、手続きが複雑になることがあります。
大まかな流れは以下の通りです。
それぞれの項目について、解説します。
相続人の確定と戸籍謄本の取得
遺言書がない場合、法定相続人が相続することになります。法定相続人の範囲は、民法で定められており、基本的に次のような順位で決まります。
- 第1順位:配偶者と子(直系卑属)
- 第2順位:配偶者と父母(直系尊属)※子がいない場合
- 第3順位:配偶者と兄弟姉妹 ※子も父母もいない場合
配偶者は常に相続人となり、子がいる場合は子と一緒に相続します。子がいない場合は、親や兄弟姉妹が相続人となります。
相続人を確定するためには、被相続人の戸籍謄本や除籍謄本などを取得し、正確に相続人を特定することが必要です。

相続財産と債務を調査
相続人が確定したら、被相続人の財産を調査し、プラスの財産(不動産、預貯金、株式など)やマイナスの財産(借金、未払金など)を把握する必要があります。
財産調査は、金融機関に問い合わせたり、法務局で不動産の登記情報を確認したりして行います。マイナスの財産が多い場合は、相続放棄や限定承認の手続きを検討することも重要です。

遺言書がない場合は遺産分割協議で分け方を決める
遺言書がない場合、相続財産の分割について相続人全員で話し合い(遺産分割協議)を行い、合意する必要があります。合意内容は「遺産分割協議書」として文書にまとめ、相続人全員が署名・押印(実印)します。
遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所での調停を申し立てます。調停でも合意に至らない場合は、審判により遺産分割が決定されます。

相続財産の名義変更や分配手続き
遺産分割協議が成立したら、次に各財産の名義変更や分配の手続きを行います。これには、さまざまな手続きが必要であり、関係各所に申請を行う必要があります。
具体的には、以下のような手続きが一般的に行われます。
- 不動産の名義変更(相続登記)
→ 法務局へ申請し、相続人名義に変更する。 - 銀行口座の解約・名義変更
→ 各金融機関に対し、被相続人の口座を解約し、遺産分割協議に基づいた振り分けを行う。 - 証券口座の変更
→ 証券会社に連絡し、相続人の名義に変更する手続きを進める。 - 自動車の名義変更
→ 陸運局(運輸支局)で相続人名義に変更する手続きを実施する。 - 年金・保険の手続き
→ 年金事務所や保険会社に届け出を行い、必要な給付や解約手続きを進める。
これらの手続きは、相続人全員の同意が必要なものも多く、事前に協議を十分に行うことが望ましいです。
また、手続きに必要な書類(戸籍謄本、遺産分割協議書、相続人の印鑑証明書など)をしっかりと準備し、スムーズに進めることが重要です。

相続税の申告と納付
相続財産の合計額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告が必要になります。
申告期限 | 被相続人の死亡から10か月以内 |
申告先 | 被相続人の住所地を管轄する税務署 |
財産の評価や税額計算が複雑な場合は、税理士に相談することをおすすめします。

相続手続きの完了
すべての財産の分配、名義変更、相続税の申告と納付が完了したら、相続手続きは終了となります。
遺産分割協議が合意に至らない場合の調停や審判
遺産分割調停とは、相続人同士で遺産の分け方について話し合いがまとまらない場合に、家庭裁判所の調停手続きを通じて解決を図る制度です。
相続人の一人が申し立てることで開始され、裁判官と調停委員が中立的な立場で関与しながら、相続人同士の意見を調整し、合意を目指します。
話し合いが成立すれば、調停調書が作成され、それに従って遺産が分割されます。もし調停で合意に至らなかった場合は、自動的に審判手続きへ移行し、裁判所が遺産分割の内容を決定します。
調停手続きには専門的な知識が求められるため、弁護士に相談することでスムーズな解決が期待できます。
相続における遺言書の重要性
相続において遺言書は、財産の分配を明確にし、相続人間のトラブルを防ぐために非常に重要な役割を果たします。遺言書がない場合、遺産は法律に従って法定相続人に分配されますが、相続人の意向と異なる結果になることもあります。
特に、特定の相続人に多くの財産を譲りたい場合や、法定相続人以外の人(例えば、内縁の配偶者や養子縁組していない子)に財産を渡したい場合、遺言書がなければ実現できません。
また、遺言書があることで、相続手続きがスムーズに進み、相続人同士の争いを防ぐことができます。
遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、それぞれの形式に沿って作成しないと無効になる可能性があります。特に公正証書遺言は公証人が関与するため、安全性と確実性が高いとされています。
相続を円滑に進めるためにも、生前に適切な遺言書を作成しておくことが重要です。
自筆証書遺言と公正証書遺言の比較
自筆証書遺言のメリットとデメリット
自筆証書遺言は、遺言者が自分一人で作成できるため、手軽に準備できる点が最大のメリットです。公証人や第三者の立ち会いが不要であり、費用もかからないため、誰でも気軽に作成できます。また、遺言の内容を自由に変更できるため、状況に応じて書き直しがしやすいという利点もあります。
一方で、自筆証書遺言にはいくつかのリスクがあります。まず、法律で定められた書式(全文を自筆で書く、日付と署名を明記する、押印するなど)を守らなければ、無効になる可能性があります。また、遺言書の紛失や盗難、偽造、改ざんのリスクもあり、相続時に発見されないことも考えられます。
さらに、内容に曖昧な表現が含まれると、相続人間で解釈が分かれ、争いの原因になることがあります。こうしたリスクを軽減するため、自筆証書遺言を法務局に預ける「遺言書保管制度」を利用する方法もあります。
公正証書遺言のメリットとデメリット
公正証書遺言は、公証人が遺言者の意志を確認しながら作成するため、形式ミスや法律的な不備による無効の心配がありません。また、原本は公証役場に保管されるため、紛失や偽造のリスクがなく、安全性が高いのが特徴です。
さらに、遺言の内容が明確に記録されるため、相続人同士の争いを未然に防ぐ効果もあります。高齢で字を書くのが難しい人や、病気などで自筆が困難な人でも、口述で遺言を作成できる点もメリットの一つです。
公正証書遺言のデメリットとしては、作成にあたり公証人手数料が発生する点が挙げられます。費用は遺産の額によって変動し、数万円から十数万円程度かかることがあります。また、遺言作成時には証人2名の立ち会いが必要であり、プライバシーを完全に守るのが難しい場合もあります。
さらに、公証役場で手続きを行う必要があるため、自筆証書遺言に比べて手間がかかる点もデメリットと言えます。
まとめ 遺言書がない場合の遺産分割と対策
遺言書がない場合、法定相続に基づく遺産分割が行われますが、相続人間の対立や手続きの長期化などのリスクが伴います。そのため、あらかじめ遺言書を作成し、相続の方針を明確にしておくことが、スムーズな相続手続きを実現するために重要です。
遺言書がない場合の遺産分割を円滑に進めるためには、家族とのコミュニケーションを大切にすることが重要です。相続人同士が互いの意見や希望を尊重し、全員が納得できる方法を話し合うことが求められます。
また、遺言書の作成や遺産分割について詳しい情報やサポートが必要な場合は、専門家に相談することをお勧めします。スムーズな相続を実現するためにも、早めに準備し、適切な対策を講じることが大切です。