夫婦が共有名義で所有していた不動産の持分も、相続財産に含まれます。故人が遺言書を残していない場合、相続人は故人が所有していた不動産の持分をそれぞれ相続することになります。
共有名義の不動産については、遺言書がある場合は、その内容に従って相続人が決まります。しかし、遺言書がない場合は、遺産分割協議を行い、誰が相続するかを決定します。
そのため、共有者であっても必ずしも該当する不動産を相続できるとは限りません。故人の配偶者であっても、他の相続人より優先して故人の持分を相続できるわけではないので注意が必要です。
この記事では、共有名義の不動産を所有している場合に、片方が亡くなったときの相続手続きの流れや、相続順位、財産の分配割合について詳しく解説します。
また、共有名義を解消したほうが良い理由についても触れていますので、ぜひご一読ください。
このページの目次
共有名義の不動産で片方が死亡した場合、誰が相続するのか?
不動産の共有とは
ひとつの不動産を複数の人が共同で所有することを指します。この場合、共有者は不動産の特定の部分を所有するのではなく、不動産全体に対してそれぞれの持分を有している状態になります。
例えば、夫婦が不動産を共有名義で購入した場合、それぞれが一定の持分を持ち、共同でその不動産を所有します。持分の割合は購入時の出資割合に応じたり、契約で決めたりすることが一般的です。
共有者が死亡しても、他の共有者が優先的に取得できるわけではない
共有者の一方が亡くなった場合、その不動産の共有持分が自動的に他の共有者に移転することはありません。亡くなった人の持分は相続財産となり、相続手続きの対象となります。
相続人になるのは、通常の不動産と同様に、亡くなった所有者の法定相続人です。そのため、共有状態にある不動産の持分は、亡くなった共有者の相続人が引き継ぐことになります。
また、相続人の順位については、配偶者(妻または夫)は必ず相続人となります。
配偶者以外の相続人には順位が決まっており、第1順位が子供、第2順位が親などの直系尊属、第3順位が兄弟姉妹です。
共有名義の一方が亡くなった場合の相続手続き
共有名義の不動産において、共有者が亡くなったときは、その持分を相続人に移転するための相続登記が必要です。遺言書の有無や遺産分割協議の有無により、手続きの方法が異なるため、それぞれの状況に応じて進めることが求められます。
相続が発生した後の一般的な手続きの流れは次のとおりです。
1. 遺言書があるかどうか確認する
遺言書がある場合、原則として遺言書の内容に従って相続登記を行います。遺言者が自筆で作成した自筆証書遺言の場合、登記の申請前に家庭裁判所で検認手続きが必要です。
公証役場で作成された公正証書遺言や、法務局の遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言の場合には、検認手続きは不要で、そのまま相続登記を進めることができます。

2. 相続人の調査
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。この協議は、すべての相続人が参加していなければ無効となってしまうため、まず戸籍謄本を取得し、相続人を確定することが必要です。
相続人の調査は、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を収集して行います。このように戸籍謄本をすべて集めることで、相続人も把握していなかった隠し子や過去の婚姻歴なども確認することができます。

3. 相続財産の調査
相続人の調査や戸籍謄本の収集が完了したら、次に相続財産の調査を進めましょう。
相続財産には、夫婦で共有名義になっていた不動産だけでなく、預貯金や株式等の有価証券のプラスの財産と、借金や住宅ローンなどのマイナスの財産も含まれますので、漏れがないように調査をしましょう。

4. 相続人全員で遺産分割協議
相続人調査と相続財産調査が完了した後に、遺産分割協議を進めます。遺産分割協議とは、相続人同士で、誰がどの財産を、どれだけ相続するかを決定するための話し合いのことを言います。
遺産分割協議がまとまったら、決定した内容を基に、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名し、実印で押印をします。相続人全員の印鑑証明書も必要になるので、同じタイミングで用意してもらうのがいいでしょう。

5. 相続登記
遺産分割協議書の作成が完了した後は、相続税の申告や各財産の名義変更手続きを進めます。
共有名義の不動産については、亡くなった被相続人の持分を相続する人へ名義を変更する手続きが必要です。この名義変更を相続登記といい、不動産を管轄する法務局に申請をします。
なお、2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。正当な理由なく期限内に登記を行わない場合、10万円以下の過料が科せられることがあります。

6. 相続税の申告・納付
相続税は、相続や遺贈により得た財産の総額が一定の基礎控除額を超えた場合に課されます。
相続税の申告は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。この期限を過ぎると、延滞税や加算税が発生する可能性があるため、期限内に手続きを済ませることが重要です。
他の共有者に不動産をすべて相続させる方法
共有名義の不動産を所有している場合、片方が亡くなったときに、もう片方の共有者が共有持分を必ず相続できるわけではありません。
そのため、相続に関するトラブルや権利関係の複雑化を防ぐために、あらかじめ相続対策をしておくことが重要です。
遺言書を作成する
遺言書を作成しておけば、法定相続分にとらわれずに遺産分割を行うことができます。たとえば、「配偶者に共有名義の不動産をすべて相続させる」と遺言書に記載しておけば、不動産の権利関係が複雑化することを避けられます。
ただし、遺言書は法律で定められた形式に従って作成しないと、法的な効力が認められません。相続に関するトラブルを防ぐために遺言書を作成する場合、形式不備のリスクを減らすために、公正証書遺言で作成するのがおすすめです。
遺言書にはいくつかの形式がありますが、代表的なものは以下の2つです。
1. 自筆証書遺言
遺言者が自分で全文、日付、氏名を手書きで記載し、押印した遺言書です。
比較的簡単に作成できる一方で、形式の不備があると無効になるリスクがあります。また、相続発生後、家庭裁判所に遺言書の検認の申し立てる必要があります。
2. 公正証書遺言
公証人の前で作成し、公証役場で保管される遺言書です。
公証人が作成をサポートするため、形式不備のリスクがなく、信頼性が高いです。遺言者が公証人と2人の証人の前で内容を口述し、それを公証人が書面化します。
共有持分の生前贈与(おしどり夫婦間の贈与)
生前贈与を活用することで、不動産の共有持分をすべて渡すことが可能です。生前贈与は、贈与者と受贈者の合意があれば、希望するタイミングで自由に行えるのが大きなメリットです。
しかし、年間110万円を超える贈与を受け取ると贈与税が発生し、また贈与税の税率は、相続税よりも高く設定されています。そのため、夫婦間で共有名義の不動産持分を贈与する際には、「おしどり贈与」(贈与税の配偶者控除)を利用することをおすすめします。
おしどり贈与とは、結婚して20年以上経過した夫婦が居住用の不動産を贈与する場合、2,000万円まで非課税になる特例です。この特例を使うことで、共有名義の不動産を贈与する際の贈与税を大幅に軽減できます。
また、親子間での贈与では、相続時精算課税制度を利用して生前贈与をすることも可能です。相続時精算課税制度とは、生前贈与を受けた財産について、贈与時に一定額まで非課税とし、最終的には相続時に精算する制度です。
これにより、生前にまとまった金額を贈与しやすくなる反面、将来の相続時に相続税として調整される仕組みとなっています。
贈与者が60歳以上の父母または祖父母で、受贈者(贈与を受ける人)が18歳以上の子や孫の場合に利用できます。贈与財産の合計で2,500万円まで非課税となります。
まとめ 共有名義の不動産の相続手続きは専門家に相談を
故人が所有していた不動産の共有持分は相続財産に含まれるため、相続人全員で遺産分割を行う必要があります。片方の共有者が優先して相続できるわけではありません。
共有名義の不動産を持っていた方が亡くなった場合、遺言書の有無を確認したり、相続人を確定したり、相続人全員で遺産分割協議を進めたりと、複雑な手続きが必要になります。
不動産の権利が複雑になることや、相続トラブルを避けたい場合は、生前に対策を講じておくことが大切です。具体的には、遺言書の作成や、生前贈与などが効果的です。
相続対策は、本人の希望や資産状況によって最適な方法が異なるため、相続の専門知識を持つ司法書士や弁護士に相談することも検討しましょう。