相続人と連絡が取れない場合、その人を除いて遺産分割協議を行うことはできません。
遺産分割協議は相続人全員の同意をもって相続の内容を決める必要があるため、1人でも連絡が取れない相続人がいる場合は遺産分割協議が成立しません。
そのため、話し合いを進める前にすべての相続人と連絡を取る必要があります。
今回は、相続人と連絡が取れない場合の対応方法について、手順や注意点を詳しく解説します。
このページの目次
連絡が取れない相続人がいる
遺言書が残されていない場合には、相続手続きを進めるには、遺産分割協議が必要になります。
遺産分割協議には、相続人全員が参加しなければなりません。相続人の1人でも欠けていると、遺産分割協議が無効となってしまい、相続手続きを進めることができません。
音信不通の相続人がいても、遺産分割協議を行うために、相続人を捜す必要があります。相続人が見つかったら、遺産分割協議に参加してもらうよう要請しなければなりません。
行方不明者や連絡が取れない相続人がいる場合には「不在者財産管理人」を選任したり「失踪宣告」をしたりして、法的に適切な対応を進めなくてはなりません。
また、連絡は取れる状態で無視されているようなケースでは、遺産分割調停や遺産分割審判を申し立てることが必要です。
なぜ相続人が連絡を無視するのか
相続人が連絡を無視する理由は、様々なケースが考えられます。相続は、感情的な側面も強く、個人の事情や人間関係が複雑に絡み合うため、一概に特定することは難しいです。
しかし、よくある理由としては、以下のようなものが挙げられます。
- 入院していたなどの事情で書類をそもそも見ていない
- 親族同士がもともと不仲や疎遠である
- 音信不通、生死不明である
連絡が取れない相続人がいる場合の具体的な対応方法
住所の調査(戸籍謄本・戸籍の附票を取得する)
戸籍謄本を取得して相続人が判明したら、相続人の戸籍の附票も取得します。
戸籍の附票とは、戸籍に記載されている人について、その戸籍が作られてからから現在までの住所の変遷を記録した書類です。戸籍謄本とセットで本籍地の市区町村役場で管理されています。
戸籍の附票を取り寄せると、音信不通の相続人であっても、住民票上の住所がわかります。相手の住所がわかったら、手紙で連絡をしてみましょう。
家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
すでに深い対立関係になっていて連絡が取れない場合には、遺産分割協議に参加してくれない可能性もあります。
その場合、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てて話し合いを進めるしかありません。遺産分割調停を申し立てると、家庭裁判所から相手の住所へ呼び出し状を送ってくれます。
裁判所からの手紙になるので、連絡を無視していた相続人も応じてくれる可能性もあります。遺産分割調停でも話し合いがまとまらない場合には、「遺産分割審判」を行い、裁判所が遺産分割の方法を決定します。
相続人が行方不明の場合はどうする?
戸籍謄本や戸籍の附票を取得すれば、相続人の住民票上の住所はわかります。しかし、相続人がすでにその住所地に住んでいないケースもあります。
行方不明の相続人を除外して遺産分割協議をしても無効です。遺産分割協議をするために、行方不明の相続人の代理人(不在者財産管理人)を立てなければなりません。
行方不明の期間が長く、亡くなっている可能性が高い場合には、失踪宣告を出してもらう方法もあります。
不在者財産管理人の選任を申し立てる
不在者財産管理人とは、行方が分からなくなり、連絡が取れない人の財産を、その人の代わりに財産管理する人のことをいいます。
裁判所によって選任され、不在者の財産を保護し、その利益のために適切な処分を行う役割を担います。相続人であれば、利害関係人として不在者財産管理人の選任を申し立てることができます。
不在者財産管理人になれるのは、相続に利害関係がない被相続人の親族や弁護士、司法書士などの専門家がなることができます。
以下、不在者財産管理人の選任を申し立ての流れです。
申立先 | 不在者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
申立人 | 不在者の配偶者、子、兄弟姉妹などの親族、または、不在者の財産に利害関係のある第三者 |
必要な書類 | 申立書、不在者の戸籍謄本・戸籍の附票、不在者の財産に関する資料(不動産登記簿謄本、預金通帳など)、不在の事実を証する資料(最後の連絡を取った日時や内容など)、財産管理人候補者の住民票・戸籍の附票 |
申立費用 | 収入印紙800円、予納郵便切手 |
失踪宣言を行う
失踪宣告とは、長期にわたって行方不明になっている人について、法律上死亡したものとみなす制度です。つまり、行方不明になった人が、一定期間生死が確認できない場合に、法律上死亡扱いとすることで、その人の財産や家族関係などを整理するための手続きです。
失踪宣告には、以下の2つの種類があります。
- 普通失踪
生死不明の状態が7年間続いている場合 - 危難失踪
戦争、船舶の沈没、震災など、死亡の原因となる危難に遭遇し、その危難が去った後1年間生死が不明な場合
失踪宣告なされると、その失踪者は法律上死亡したとみなされますので、遺産分割協議に参加なくて済むことになります。
ただし、失踪宣告を受けた者に相続人がいれば、その相続人を参加させなければなりません。
遺産分割をせずに放置するリスク
連絡が取れない相続人がいる場合、遺産分割調停、不在者財産管理人の選任の申立などの手続きには手間がかかるため、そのまま放置してしまうこともあると思います。
このような状況で相続手続きを放置してしまうと、様々なリスクが生じます。
1. 不動産の売却ができない
亡くなった人が所有していた不動産は、遺産分割が完了するまで、相続人全員の共有状態となります。共有状態の不動産を売却するには、共有者全員の合意が必要です。
そのため、行方不明の相続人に対して不在者財産管理人の選任や失踪宣告の手続きを行わずに放置すると、売却を進めることができません。
2. 預貯金の払い戻しができない
相続財産に預貯金が含まれている場合、遺産分割協議をしないと、預貯金の払い戻しをすることができません。相続法の改正により、法定相続人であれば、法定相続分に応じて一部の払い戻しは可能ですが、全額を引き出すことはできません。
そのため、預貯金が中途半端な状態で放置されることになります。
3. 相続税申告で不利益になる可能性
相続税の申告期限は相続開始から10か月と決まっています。しかし、相続人全員で遺産分割協議が完了していないと、誰にどのくらいの財産が渡るのかはっきりしないため、とりあえず法定相続分で相続したものとして申告する必要があります。
この場合、配偶者控除や小規模宅地の特例等の相続税を安くする特例が適用されず、税金が高くなってしまう可能性があります。
ただし、3年以内に遺産分割協議がまとまりそうであれば、税務署にその旨を伝えておくと、特例が適用できる可能性があります。
まとめ 連絡が取れない相続人問題の解決策
相続人が音信不通で連絡が取れない場合でも、戸籍謄本や戸籍の附票を取り寄せて住所を調べることが可能です。これを利用して相続人と連絡を取り、遺産分割協議を行い、相続手続きを進めましょう。
相続手続きにおいて、戸籍謄本の取り寄せや行方不明者への対応は、無理をせず専門家に任せるのが安心です。専門家に依頼することで、手続きをスムーズに進められ、早期に相続手続きの負担から解放されることができます。